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2009.01.22

[雑記:0005] 「預金取引記録開示請求事件」最高裁判決(H21.1.22)

[相続人] ブログ村キーワード
本日(平成21年1月22日),最高裁判所第一小法廷(東京都千代田区隼町4-2)において,「遺産の預金口座につき,相続人のうち一人からでもその取引記録の開示請求ができる」旨の判決(平成19年(受)第1919号 預金取引記録開示請求事件)が言い渡されました。

その要旨は,次のとおりです。

 金融機関は,預金契約に基づき,預金者の求めに応じて預金口座の取引経過を開示すべき義務を負う。

 預金者の共同相続人の一人は,他の共同相続人全員の同意がなくても,共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき,被相続人名義の預金口座の取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができる。

これまでは,金融機関により上記対応がまちまちで,共同相続人全員の同意がないと記録開示に応じないとしていた金融機関もありました。
同判決は,今後の相続手続の実務に大きな影響を与えそうです。

なお,判決全文は,次のとおりです。

主   文

     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。

理   由

上告代理人千葉恒久,同亀井時子,同浅井通泰の上告受理申立て理由について

1 本件は,被相続人である預金者が死亡し,その共同相続人の一人である被上告人が,被相続人が預金契約を締結していた信用金庫である上告人に対し,預金契約に基づき,被相続人名義の預金口座における取引経過の開示を求める事案である。

2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1) Aは被上告人の父であり,Bは被上告人の母である。Aは平成17年11月9日に,Bは平成18年5月28日に,それぞれ死亡した。被上告人はA及びBの共同相続人の一人である。
 (2) 平成17年11月9日当時,Aは上告人a支店において1口の普通預金口座と11口の定期預金口座を有しており,Bは同支店において1口の普通預金口座と2口の定期預金口座を有していた。
 (3) 被上告人は,上告人に対し,A名義の上記各預金口座につき平成17年11月8日及び同月9日における取引経過の開示を,B名義の上記各預金口座につき同日から平成18年2月15日までの取引経過の開示を,それぞれ求めたが,上告人は,他の共同相続人全員の同意がないとしてこれに応じない。

3 預金契約は,預金者が金融機関に金銭の保管を委託し,金融機関は預金者に同種,同額の金銭を返還する義務を負うことを内容とするものであるから,消費寄託の性質を有するものである。しかし,預金契約に基づいて金融機関の処理すべき事務には,預金の返還だけでなく,振込入金の受入れ,各種料金の自動支払,利息の入金,定期預金の自動継続処理等,委任事務ないし準委任事務(以下「委任事務等」という。)の性質を有するものも多く含まれている。委任契約や準委任契約においては,受任者は委任者の求めに応じて委任事務等の処理の状況を報告すべき義務を負うが(民法645条,656条),これは,委任者にとって,委任事務等の処理状況を正確に把握するとともに,受任者の事務処理の適切さについて判断するためには,受任者から適宜上記報告を受けることが必要不可欠であるためと解される。このことは預金契約において金融機関が処理すべき事務についても同様であり,預金口座の取引経過は,預金契約に基づく金融機関の事務処理を反映したものであるから,預金者にとって,その開示を受けることが,預金の増減とその原因等について正確に把握するとともに,金融機関の事務処理の適切さについて判断するために必要不可欠であるということができる。
 したがって,金融機関は,預金契約に基づき,預金者の求めに応じて預金口座の取引経過を開示すべき義務を負うと解するのが相当である。
 そして,預金者が死亡した場合,その共同相続人の一人は,預金債権の一部を相続により取得するにとどまるが,これとは別に,共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき,被相続人名義の預金口座についてその取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができる(同法264条,252条ただし書)というべきであり,他の共同相続人全員の同意がないことは上記権利行使を妨げる理由となるものではない。
 上告人は,共同相続人の一人に被相続人名義の預金口座の取引経過を開示することが預金者のプライバシーを侵害し,金融機関の守秘義務に違反すると主張するが,開示の相手方が共同相続人にとどまる限り,そのような問題が生ずる余地はないというべきである。なお,開示請求の態様,開示を求める対象ないし範囲等によっては,預金口座の取引経過の開示請求が権利の濫用に当たり許されない場合があると考えられるが,被上告人の本訴請求について権利の濫用に当たるような事情はうかがわれない。

4 以上のとおりであるから,被上告人の請求を認容した原審の判断は,結論において是認することができる。論旨は採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 涌井紀夫 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉 徳治 裁判官 宮川光治 裁判官 櫻井龍子)

【関連ウェブサイト】
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