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2010.04.30
[遺言] ブログ村キーワード
本日(平成22年4月30日),所属する神奈川県行政書士会 鶴見・神港支部から「行政書士のための実務ハンドブック 遺言・相続 2010年4月」が上梓されました。
私も,同書全般にわたって執筆・編集させていただいております。
同書のコラム欄に私が執筆した記事をご紹介します。
成年被後見人の遺言加賀 雅典成年後見制度と遺言・相続制度には,密接不可分な関連があります。
これは,成年後見制度が本人の生存中の法律行為等に関する制度であり,成年後見人の職務が本人の死亡により終了するものであるのに対し,遺言・相続制度は,本人死亡後の手続に関する制度であるところから,その両者の連続性の観点に基づき,両者の一体性が求められるケースが多々存在するためです。
この点に関し,私が実務上取り扱った事例として,(1)成年被後見人の母の相続につき,私自身が成年後見人として,本人を代理して他の相続人と遺産分割協議をした事例,(2)いわゆる「親亡き後問題」に対応するため,私自身が任意後見受任者となる任意後見契約書を作成すると同時に,私自身が遺言執行者となる遺言書を作成した事例などが挙げられます。
ここでは,それらの事例の中から,「成年被後見人の遺言」に関する事例を採り上げてご紹介したいと思います。1 業務の受任
私は,東京都内の有料老人ホームに居住する成年被後見人(以下「A」という。)から,Aの親族である成年後見人B・Cを通じて,既に作成されている遺言公正証書を変更するための遺言公正証書作成の嘱託手続を受任しました。2 第一の遺言公正証書作成と後見開始の審判
Aは,自己に後見が開始する以前に,「親族B・Cに対して全財産の各10分の4,D法人に対して全財産の10分の2を遺贈する」旨の遺言公正証書を作成していました。なお,親族B・Cは,Aの推定相続人ではなく,その他にもAの推定相続人は存在しません。
その後,親族B・Cの申立てにより,「Aについて後見を開始し,B・Cを成年後見人に選任する」旨の審判がありました。3 受遺者の予備的指定の必要性
本件受任業務は,Aが以前にした公正証書遺言の補充をするものでした。
相続人不存在の場合において,特別縁故者の財産分与の規定(民法958条の3)に該当しない場合,相続財産は,国庫へ帰属するとされています(民法959条)。
本件の場合,親族B・CのいずれかがAと同時又は先に死亡したときは,遺言は,その部分につき効力を生じません(民法994条)。そのため,通常は,このような事態を回避するために,遺言者の相続開始と同時又は相続開始以前に受遺者が死亡していた場合には,予備的に他の受遺者を指定しておく取扱いが一般的となっています。
ところが,本件では,Aに後見が開始した後に,その予備的な指定がなかったことに気づいたため,その予備的な指定をするため,成年被後見人であるAが遺言をする必要性が生じました。4 成年被後見人の遺言
遺言者は,遺言をする時において,その能力を有しなければならないと規定されています(民法963条)。
ただし,成年被後見人については,特別な規定があり,成年被後見人が事理弁識能力を一時回復している時は,医師2人以上の立会いを得て,後見人の同意なくして,単独で有効な遺言をすることができるとされています(民法973条)。なお,成年後見人は,身分行為についての代理権を有しないので,成年被後見人を代理して遺言をすることはできません。
本件では,Aが居住する有料老人ホームのかかりつけの医師2名が,立会人として手続に協力していただけることとなりました。5 成年被後見人の印鑑登録
本来なら,遺言公正証書を作成する場合,遺言者の本人確認のために,遺言者は,印鑑証明書を公証人に提出します(公証人法28条2号参照)。cf.公証人法28条2項
公証人嘱託人ノ氏名ヲ知ラス又ハ之ト面識ナキトキハ官公署ノ作成シタル印鑑証明書ノ提出其ノ他之ニ準スヘキ確実ナル方法ニ依リ其ノ人違ナキコトヲ証明セシムルコトヲ要スところが,成年被後見人は,印鑑登録を受けることができず,印鑑証明書の交付を受けることもできません。なぜなら,「印鑑登録証明事務処理要領」(旧自治省)では,15歳未満の者と成年被後見人は印鑑等労苦を受けることができないとされているところ,これに市区町村の印鑑登録条例も準拠して規定されているからです。
そこで,本件では,有料老人ホームの施設長及び親族Bが身分証明書を公証人に提示し,Aが人違いでないことを証明しました。なお,施設長は,私とともに,本件遺言の証人も兼ねています。6 遺言公正証書の作成
本件遺言公正証書の作成は,公証人に出張していただき,Aの居住する有料老人ホームの一室で行われました。
出席者は,A,公証人とその書記1名,証人(私と施設長),医師2名,遺言者の本人確認者(施設長と親族B)及び親族Cの9名です。なお,本来なら証人欠格者(民法974条2号参照)に当たる親族B・Cの立会いの可否については,次の参考判例があります。cf.最判平成13・3・27
遺言公正証書の作成に当たり,民法所定の証人が立ち会っている以上,証人欠格者が同席していても,この者によって遺言内容が左右されたり,遺言者がその真意に基づいて遺言することを妨げられたりするなど特段の事情がない限り,当該遺言公正証書が無効となるものではない。7 結 語
このようにして,民法の規定に従い,成年被後見人による公正証書遺言をすることができました。
本件では,(1)第二の遺言内容が第一の遺言内容を補充するものであり,第一の遺言をした時にその補充内容をも包含していたことが推察される点,(2)Aには推定相続人がいない点の2点が存在していたため,スムーズに手続を進めることができました。しかし,上記2点が存在しなかった場合には,その手続は,困難であっただろうと思われます。
遺言を巡る紛争の多くは,遺言能力の存否に関するものです。したがって,他に利害関係人が存在する場合には,成年被後見人の遺言につき,その手続の受任をする私たちは,十分に慎重な判断をしなければならないと考えます。
(神奈川県行政書士会 鶴見・神港支部「行政書士のための実務ハンドブック 遺言・相続 2010年4月」20頁・21頁)
【関連ウェブサイト】
日本行政書士会連合会
「行政書士の徽章」(PC版・携帯版)(当ブログ記事)
神奈川県行政書士会
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神奈川県行政書士会 鶴見・神港支部>支部会員の輪
「『支部会員の輪』取材記事公開のご紹介」(PC版・携帯版)(当ブログ記事)
「遺言」(当職事務所公式ウェブサイト)
「成年後見」(当職事務所公式ウェブサイト)
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